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発掘調査!

脊椎動物の場合、死後に水流で流されるなどの原因で骨格がバラバラになってしまうことが多いので、その化石は断片的なものであることがほとんどです。
しかし、2006年の調査で得られた化石は関節でつながった状態の後ろ足など、相当な量の骨が保存されていました。このことは、残りの骨もバラバラにならずにすぐ近くに存在する可能性が高いことを示しています。とは言え、それを確認するには硬い岩盤を大きく崩さなければならず、人力では不可能です。
そこで、重機を使っての本格的な発掘調査を行うことになりました。
発掘調査は2010年の12月から始まったのですが、現場が山奥の谷ですので、まずは重機が入れるような作業道を作らなければなりませんでした。その後は調査したい岩盤を覆っている土砂の除去作業です。こういった下準備が終わって本格的な発掘調査に入れたのは12月下旬になってからのことでした。excavation_01.jpg作業道の整備作業
大型脊椎動物化石の発掘では、現場で骨化石の形や並び方などがある程度わかる状態までクリーニングを行ってから石膏を浸した布で表面を覆って保護し取り出すという方法が一般的です。
しかし、今回の発掘現場の岩盤は非常に硬い上に化石とその周りの石が頑固にくっついていました。石が割れるときは決まって化石も割れて断面が現れるという状況で、現場でのクリーニングは不可能でした。そこで、以下のような手順で発掘を行いました。
※ 化石を覆っている余分な石を取り除く作業のこと。詳しくは「化石のクリーニング」のページを参照のこと。

STEP01

重機で岩盤を掘削して石が割れるたびによく観察して化石の有無を確認する。このとき、石の表面には泥や埃が付着してすぐに何も見えなくなってしまうので、こまめに水で洗浄を行う。

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現れた化石(椎骨)の断面 (黄色の点線内の茶色の部分)

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洗浄の様子

STEP 02

見つかった化石断面の分布状況から、化石がどの地層面上にあるのかを推定し、それより上の岩盤を取り除いて化石を含む地層面を露出させる。

STEP 03

地層面上で見つかった化石断面の分布状況からその広がりの範囲を推定し、その範囲内の岩石を全て回収する。

結局のところ、約3×1mの範囲内にたくさんの化石が埋まっている状況を確認し、その範囲の外側も1mずつくらい掘って化石がないのを確認した上で、これら全てを採取しました。

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当初は「もし、何も見つからなければどうしよう?」という不安が少なからずあったのですが、その心配は不要でした。むしろ次から次へと見つかる骨化石をどうやって壊さずに取り出すかという悩みの方が大きくなっていきました。幸いだったのは、化石を含む層準のところで地層面に沿った割れ目ができていたことで、うまい具合に地層面を露出させることができました。あとは化石が含まれている3×1×0.5 mほどの岩を切り出してそのまま持ち帰ることができれば話は早かったのですが、そうはうまくいきませんでした。岩盤は非常に硬い上に無数の不規則な割れ目が発達していて思うようには割れず、大小の破片へと分裂してしまったのです。後で組み立てることができるようにと思い、石が割れるたびに通し番号を付けていったのですが、各断面に付けた番号は400を超えました。
岩盤は基本的に硬かったのですが、部分的に非常に脆くなっていることがあり、番号を付ける間もなくバラバラになってしまうこともありました。特に困ったのが化石の部分は脆いのに周りの石は硬いというパターンです。岩盤を割るには硬い石を重機で叩かなければなりませんが、叩けば振動で化石が壊れていく。これは大変なジレンマでした。こういう場合は瞬間接着剤で補強をしながら作業を進めたのですが、うまくいかずに化石の一部が粉々になってしまったこともありました。

outlook_01.jpg通し番号 スポンジ状の部分は骨化石の断面outlook_02.jpg粉々になった化石

発見された大量の化石

excavation_11.jpg地元の中学校に運び込まれたときの様子。 教室の半分を占める量になった発掘が終わった直後の段階では、大量の化石が得られたことはわかったものの、詳しいことは全くわかりませんでした。

しかし、クリーニング作業が進行するにつれ、1つ1つの骨の形がはっきりと認識できるようになり、部位が特定できるものも現れはじめました。
2015年の時点で、これらの化石はほぼ全て同一個体由来のもので、少なくとも上半身のほとんどの骨が保存されているということがわかっていました(下図参照)。

また、小西卓哉博士の調査でこの化石種がモササウルス亜科の一種であることや、推定体長が約6mであることなども明らかになりました
※2009年の記者発表時には推定体長を「8m 以上」としていましたが、今回ほぼ完全な下顎骨が見つかったことによってより正確な推定が可能になり、推定し直したところ「約6m」という数字になりました。

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モササウルス類の骨格図

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東アジアのモササウルス類は、太平洋をはさんで対岸にあたる北米等のモササウルス類とはさまざまな意味で違った特色を持っている可能性があるのですが、東アジアでは日本以外でモササウルス類化石の発見例はありません。
なので、日本で発見された化石はどれも大変重要な意味を持っています。
鳥屋城山(とやじょうさん)で発見された化石は、頭骨、脊椎骨、肋骨、前後の鰭の骨等がそろった日本で唯一の標本であり、世界的に見ても研究価値の高い貴重なものであると言えるでしょう。

モササウルス以外の化石

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アンモナイト(パキディスカス・アワジエンシス)の復元図 作画:小原志津子

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アンモナイトの化石(パキディスカス・アワジエンシス )

今回の発掘ではモササウルス以外の生物、例えばアンモナイトや二枚貝、巻貝、サメの歯、植物などの化石もみつかりました。

特にアンモナイトのパキディスカス・アワジエンシスの発見は、発掘現場の地層の年代を知る手がかりになりました。

本種は淡路島の約7200万年前の地層中から産出する種なので、鳥屋城山の発掘現場の地層もほぼ同年代とみなすことができます。

※アンモナイトは種類ごとに生息していた年代が異なり、またその生息期間も短いものが多いので、種類がわかればかなり細かい年代まで推定できることがあります。このように年代を推定する手がかりになる化石を「示準化石」と呼びます。