和歌山で発見された モササウルスの新種 ワカヤマソウリュウ
和歌山で発見された モササウルスの新種 ワカヤマソウリュウ

有田川町産出のモササウルス類は新属新種!!ー これまでの学説を覆す新たな発見 一

有田川町産出のモササウルス類は新属新種!!ー これまでの学説を覆す新たな発見 一

ワカヤマソウリュウの生体復図と産出部位作製:©Takumi

ワカヤマソウリュウの復元図と化石産出部位 
作製 ©Takumi

平成18年に有田川町で発見されたモササウルス類が、メガプテリギウス・ワカヤマエンシス(Megapterygius wakayamaensis) として新属・新種記載されました。また、県民の皆様に親しみをもっていただくため、通称を「ワカヤマソウリュウ(和歌山滄竜)」とします。
ワカヤマソウリュウは、尾部を除くほぼ全身が保存されており、モササウルス類としてはアジア初の全身骨格化石となる、世界的にも貴重な標本です。今回の研究によって、異様に大きな脚ヒレ、両眼視できる前向きの眼(モササウルス類では2例目)や背ビレの存在の可能性を示す(モササウルス類では世界初)骨格など、これまでの学説を覆す多くの発見がありました。このことは、モササウルス類の多様性の高さを示すものであり、モササウルス類研究を大きく進展させる重要なものです。

産出した化石の概要

産出した化石の写真

学  名
Megapterygius wakayamaensis

産出部位
頭骨、椎骨(頚椎と胴椎すべて)、肋骨、左右の
         前脚のヒレの骨、左後脚のヒレの骨等、尾を除く
         ほぼ全ての骨格が保存されている。

推定全長
約6m

産出地点
和歌山県有田郡有田川町長谷川(鳥屋城山)

地  層
外和泉層群鳥屋城層

推定年代
中生代白亜紀後期(約 7200万年前)

学名メガプテリギウス・ワカヤマエンシス(Megapterygius wakayamaensis)の意味について
属名のMegapterygius は「大きい翼」という意味(ギリシャ語で「大きい」を意味する
「megas」と、「翼」を意味する「pterygion」より)。翼のような形の大きいヒレにちなんで名づけられた。
種小名のwakayamaensis は、産地の和歌山にちなんでいる(「-ensis」は「・・・産の」という意味のラテン語の接尾語)。

モササウルス類とは

ワカヤマソウリュウ イメージ画像

モササウルス類の生態復元模型 
制作:古田悟郎(海洋堂) 
監修:小西卓哉(シンシナティ大学)

モササウルス類は水生爬虫類の一種で、滄竜(そうりゅう)と呼ばれることもある。約9800 万年前に出現し、白亜紀後期の海で繁栄した。現生の生きもので言えばトカゲやヘビに近いなかまで、ヒレ状に進化した足とサメのような尾ビレを持つ高次捕食者であった。 なかには体長10mを超えるような大型のものも存在し、海の王者として君臨していたが、約 6600 万年前に非鳥類型恐竜と共に絶滅し、現在ではその姿を見ることはできない。モササウルス類は恐竜ではないが、映画「ジュラシックワールド」シリーズにたびたび登場したことで知名度が急上昇し、現在では子供たちの間でティラノサウルスに並ぶ人気を誇っている。

これまでの経緯

これまでの経緯

ワカヤマソウリュウの特徴

  • 脚ヒレの長さが頭骨よりも長い、また、前よりも後ろのヒレの方がより長い。
  • 頭骨の眼窩付近がやや左右に広がっている。このことは両眼視ができていた可能性を示唆する
    (モササウルス類では2例目)。
  • 胴椎の棘突起が長く、特に第1~6胴椎は15cm以上になる。このことは前脚のヒレの動きを補佐する背筋が発達していたことを示唆する。
  • 椎骨の棘突起は基本的に後方へ傾くが、第17~21椎の棘突起は前方へ屈曲する。このことはイルカのような背ビレが存在した可能性を示唆する(モササウルス類では初)。
  • 顎骨がやや華奢で歯も細め。
  • 指骨の中央のくびれが顕著。
  • 胴椎につながる肋骨は12番目までが長く、13番目以降は急に短くなる。
  • 上腕骨の肩甲骨へとつながる側の端が大きなドーム状になっており、かつその円状面積が非常に大きい。このことは上腕骨の可動域が大きかったことを示唆する。
  • 脚ヒレの長さが頭骨よりも長い、また、前よりも後ろのヒレの方がより長い。
  • 肩甲骨が構成する肩関節が後方ではなくやや斜めに外側へ向いている。このことは前匕レが後ろ方向では   なく横方向に伸びるようになっていたことを示唆する。

特徴から推定される生態

ワカヤマソウリュウ生態復元画

約7200万年前の和歌山の海中景観 
作製 ©Takumi

従来、モササウルス類は前方に進むための推進力を尾ビレを左右に強く振ることによって得ていたと考えられていた。しかし、ワカヤマソウリュウの前脚のヒレは、ブレーキや左右方向転換の他に、前進するための推進力を得る役割を担っていたと推定され、現生の生物で言えば、ウミガメやペンギンの泳ぎ方に近いものと思われる。後脚のヒレは水平を保っためのバランス取りの他、ブレーキや上下方向移動時の転換に使われていたと推定される。尾ビレは基本的に左右方向の舵取りをアシストする程度だったと思われるが、急な方向転換やダッシュの時には尾ビレを使っていたのかもしれない。また、頭は小さく顎も華奢であることから、大きな獲物を狙うような獰猛な性格ではなく、両眼視を生かして素早い小魚を的確に捕えて餌にしていた可能性が高い。

学術的重要性

  1. 尾を除く骨格のほぼすべてが保存され、モササウルス類としては、国内はもとよりアジアおよび北西太平洋地域で唯一の全身骨格化石であること。
  2. 新属新種であること。
  3. 前後の脚ヒレが異様に大きいなどユニークな特徴を持つこと。そしてその特徴から、これまでの定説とは異なる泳ぎ方をしていたと推定されること。
  4. 背ビレが存在した可能性があること。これまでにそのようなモササウルス類は世界中のどこからも知られていない。
  5. モササウルス類が従来考えられていた以上に多様な形状に進化を遂げていたことを示す重要な存在となる。
記載論文

著者:小西卓哉・小原正頭・御前明洋・松岡廣繁・ヘイリーストリート*1・マイケルカウルドウェル*2
*1 Hallie P. Street マキュワン大学(Department of Biological Sciences, McEwan University), カナダ非常勤講師
*2 Michael W. Caldwell TA-7 t# Department of Biological Sciences and Department of Earth and Atmospheric Sciences, University of Alberta), カナダ教授
タイトル:A new derived mosasaurine (Squamata: Mosasaurinae) from southwestern Japan reveals unexpected postcranial diversity among hydropedal mosasaurs.
日本語訳:本邦南西部より産出した派生型モササウルス亜科(有鱗類)の新標本が明らかにする、進化型モササウルス類における新たな骨格の多様性
雑誌名:Journal of Systematic Palaeontology
イギリスのロンドン自然史博物館が出版する古生物学界の国際学術誌で、分類・系統学分野の研究を取り扱っている。