紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
7 ミナミイソハゼ (南磯鯊)
スズキ目ハゼ科イソハゼ属
ミナミイソハゼEviota japonica は、紀伊半島(きいはんとう)から琉球列島(りゅうきゅうれっとう)にかけて主に黒潮(くろしお)の影響(えいきょう)を受ける海岸に分布しているハゼ科魚類です。一生を海水中ですごすミナミイソハゼは成長しても体長3cmほどの小さなハゼで、複雑(ふくざつ)に入り組んだ岩場に生息しているので見つけにくい魚です。そのためか、ミナミイソハゼが紀伊半島で見つかったのは最近のことで、和歌山県では2001年に私と串本海中公園(くしもとかいちゅうこうえん)の方が見つけたのが最初だと思われます。このときも、流木の隙間(すきま)やカキ殻(がら)の間に入り込んでなかなか多くの個体を採集することは難しい状況でした。
ミナミイソハゼは、体全体が緑色がかった透明感(とうめいかん)のある色をしており、朱色(しゅいろ)や赤褐色(せきかっしょく)の小さな斑点(はんてん)がある美しいハゼです。左右の腹鰭(はらびれ)は吸盤(きゅうばん)のように癒合(ゆごう)しておらず、眼の後方に楕円(だえん)の暗色斑紋(あんしょくはんもん)があることが特徴(とくちょう)です。また、臀鰭(しりびれ)の鰭条数(きじょうすう)や第1背鰭(せびれ)の状態からも他のイソハゼ属と区別できます。
イソハゼ属は、一般に体が小さく、似(に)た体色のものが多い上、似たような環境に生息していて、最近までいくつもの種類がごちゃ混ぜになっている状態でした。ここ最近、魚類研究者やダイバーの活躍(かつやく)によって日本沿岸には30種前後のイソハゼ属魚類が生息していることが分かってきました。水中で観察しているとあまり人を恐れないので、スキューバダイビングの普及によって研究が進んだ魚類の一つといえます。小さいながらも美しい体をもつイソハゼの仲間は、水中写真の格好(かっこう)の被写体(ひしゃたい)にもなっています。
しかし、これらミナミイソハゼを含むイソハゼ属の多くは生態的に不明な点が多く、更(さら)なる調査、研究が待たれています。和歌山県沿岸にも多くのイソハゼ属が岩場やサンゴ群落(ぐんらく)の周辺に生息しており、たまたま海流によって流されて来た種類も含めると、かなりの種類がいると考えられます。私もこの夏に和歌山の磯で美しいイソハゼ属を取り逃がしてしまいました。皆様も磯遊びの際は注意して見ていたら意外な出会いがあるかもしれません。その時は教えてくださいね。
(自然博物館だよりVol.20 No.3,2002年)