紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
9 ミミズハゼ (蚯蚓鯊)
スズキ目ハゼ科ミミズハゼ属
ミミズハゼLuciogobius guttatusは、国内では北海道から沖縄県西表島(いりおもてじま)に、国外では朝鮮半島(ちょうせんはんとう)や中国に分布している通常、体長4~6cmほどのハゼ科魚類です。主に河口域や潮溜(しおだ)まりの砂利や石の多い場所に生息しています。体は細長く、赤茶色(あかちゃいろ)や黒っぽい色をしていてます。ミミズハゼは、ハゼの仲間では珍(めず)しく背鰭(せびれ)が一基(いっき)のみで、体の後ろの方にあります。ハゼの仲間なので腹鰭(はらびれ)は一応、吸盤状(きゅうばんじょう)になっていますが、砂や石の間を動き回っているうちは腹鰭で吸(す)い付くような動きは見られません。体をくねらせて砂利の中へ潜(もぐ)っていく様子は魚と言うより本当にミミズのようです。成熟(せいじゅく)したミミズハゼのオスは、頭部の筋肉(きんにく)が発達して扁平(へんぺい)し、潰(つぶ)れてしわくちゃになったように見えます。そのためか、ミミズハゼは地域ごとに「頭が潰れている」とか「頭の平らな」という意味合いの方言名で呼ばれることが多いようです。方言名が多いということは、案外我々人間とつき合いの長いハゼなのかもしれませんね。
ミミズハゼは、両側回遊型(りょうそくかいゆうがた)の生活を送るとされ、小さな動物を食べる肉食魚であるとされています。自然博物館でも十個体近くのミミズハゼを飼育しているのですが、普段は砂や石の陰(かげ)に隠(かく)れて見えないので、お客さんもなかなか探(さが)すことが出来ません。また、ミミズハゼの産卵、卵保護(らんほご)は他の多くのハゼ科魚類が行うように、オスが石の下に穴を掘(ほ)って、その天井(てんじょう)にメスが卵を産みつけ、オスがそれを守るという様式のようです。あいにく私はミミズハゼの卵保護の現場を確認したことがないので何とも言えませんが、いわゆる「ハゼ体型」からかけ離(はな)れても、このへんの生態(せいたい)は一緒なんですね。
このミミズハゼですが、実はいくつかの種(しゅ)が混ざっているとも言われています。全国の海や川などで見られるので、長い時間の中で地域ごとに変化が出てきたのか、それとも元々あまり見た目が変わらない、いくつかの種をまとめて「ミミズハゼ」と呼んでいるのか謎です。最近は遺伝的(いでんてき)な研究や形態(けいたい)的、生態的な研究も加わって研究者の間で再検討(さいけんとう)が行われています。以前からミミズハゼの仲間は、まだ新しい種類がいると言われていました。皆さんの地域のミミズハゼは果たしてミミズハゼでしょうか?それとも・・・。
(自然博物館だよりVol.21 No.1,2003年)