紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
10 サツキハゼ (皐月鯊)
スズキ目クロユリハゼ科サツキハゼ属
サツキハゼParioglossus dotuiは国内では日本海側が石川県以南、太平洋側が千葉県以南から沖縄(おきなわ)県の八重山諸島(やえやましょとう)にまで分布している体長4cmほどのオオメワラスボ科の魚類です。国外では韓国(かんこく)の南部、済州(チェジュ)島に分布しています。主に河口の汽水域(きすいいき)や波の穏(おだ)やかな内湾に生息しています。サツキハゼの体には吻端(ふんたん)から眼(め)を通って尾鰭(おびれ)の付け根まで黒い帯(おび)が続きます。サツキハゼは繁殖期(はんしょくき)になると尾鰭や背鰭(せびれ)の縁(ふち)がオレンジ色になり、体は緑色(みどりいろ)から鴬色(うぐいすいろ)になります。この時の体色が五月(さつき)の新緑(しんりょく)を連想(れんそう)させるのでサツキハゼの名が付いたようです。また、頬(ほお)の部分の青輝色(せいきしょく)の斑紋(はんもん)がハッキリしてきて、薄暗い水中では非常に目立ちます。
サツキハゼは、最近ハゼ科からハゼ亜目(あもく)オオメワラスボ科に属(ぞく)することになりました。ハゼ科からは外れましたが、「紀州の鯊」いわゆるハゼの仲間には違いありませんので、このページでも紹介します。確かに今まで紹介したハゼ科のハゼたちとはちょっと違う形態(けいたい)をしています。例えば眼(め)は頭部の側面にあり、体は細長く、腹鰭(はらびれ)は吸盤状(きゅうばんじょう)ではありません。これは、水底にくっついて生活するのではなく、泳ぎ回って生活する事に適(てき)しています。また、サツキハゼは水中に漂(ただよ)う小さな動物を食べる肉食性魚類です。水槽で飼育していると底に落ちたエサもよく食べていますが、基本的には流れてきたモノを泳ぎながら捕(と)らえて食べるようです。このへんも一般のハゼ科魚類とは違うようです。
サツキハゼは数十から数百個体の群(むれ)を作って生活していることが多く、その中には大きな個体から小さな個体まで様々な年級(ねんきゅう)(年齢(ねんれい))群(ぐん)が混ざっていると思われます。初夏の頃には繁殖期(はんしょくき)を迎え、ペアになったサツキハゼはカキの殻(から)や竹筒(たけづつ)など、ある程度閉鎖(へいさ)された空間で産卵を行います。このサツキハゼの繁殖期に水中に潜ってみると、「五月の新緑」までは連想できなくても、腹部の白と鰭(ひれ)のオレンジ色、背面の鴬色の美しい色彩(しきさい)にはしばし見とれてしまいます。
(自然博物館だよりVol.21 No.2,2003年より改訂)
*2015年現在、サツキハゼはオオメワラスボ科ではなく、クロユリハゼ科に属しています。