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ワカヤマソウリュウ

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紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu

12 ドンコ (呑子・貪子)

スズキ目ドンコ科ドンコ属

12 ドンコ (呑子・貪子)

ドンコOdontobutis obscuraは、本州中部以西の四国、九州までに分布するドンコ属のハゼです。国外からは中国大陸南部に生息しています。一生を川や池などの淡水域で過ごす純淡水魚です。

体つきはずんぐりしていて、第1背鰭(せびれ)と第2背鰭の間に暗色(黒色)斑があります。また、両眼や頬(ほお)に孔器列(こうきれつ)があります。カワアナゴ科の仲間に外見が似た種類がありますが、ドンコの方が顔つきに丸みがあり、慣(な)れてくると見分けがつくようになります。また、鱗(うろこ)の後縁(こうえん)が敷石状(しきいしじょう)であることでも区別できる点の一つです。

ドンコは、基本的に夜行性の魚で昼間は石の陰(かげ)や倒木(とうぼく)の脇に隠(かく)れていますが、夜になると活発に動き出してエビや小魚を食べます。日本の河川にすむハゼの中では大型になる種で、体長は20㎝を超(こ)える個体もあります。また、完全に肉食性で、しかも生きたものしか食べません。そのため飼育の際には餌付(えづ)けが難しく、家庭での飼育の際に苦労される方も多いようです。実際には空腹になると目の前に落とされた死にエサ(乾燥(かんそう)エビや鶏(とり)のササミ等)も食べるようになり飼育は可能ですが、空腹でないと飼育されているストレスもあって、餌自体をなかなか食べませんし、空腹になりすぎると餓死(がし)してしまいますので、このへんの見極(みきわ)めが難しいところのようです。

また、ドンコは、なわばりを持つので、狭(せま)い水槽に多くの個体を入れるとケンカをして、最悪の場合、共食(ともぐ)いをして全て死んでしまいます(最後に残った大型個体同士がかみ合った状態で動けなくなり、呼吸困難(こきゅうこんなん)でかんだ方も、かまれた方も死んでしまいます)。こういう事を起こさないように一個体で飼育するか、広いスペースに隠れ家をつくって、ゆったり飼うかのどちらかです。産卵期(さんらんき)になると求愛行動(きゅうあいこうどう)の一環としてグーグーと鳴(な)く(音を出す)事もあるので、ペアで飼育すると面白いのですが、産卵期以外はメスもケンカ相手になるので注意が必要です。また、ドンコは河川改修(かせんかいしゅう)や農薬散布(のうやくさんぷ)による餌不足、環境の悪化で日本各地で数が減少しています。肉食魚であるため、餌動物(えさどうぶつ)の減少(げんしょう)がすぐにドンコ自身の生活に影響(えいきょう)します。

2002年には島根県と山口県の河川からイシドンコOdontobutis hikimiusという新種のドンコが見つかりました。今までは地方変異(ちほうへんい)の個体群(こたいぐん)とされていたようですが、遺伝的(いでんてき)な研究により朝鮮半島の近似種(きんじしゅ)とも、我々が知っているドンコとも違うということが証明されたようです。これで日本のドンコ属は2種になったわけです。案外、一生を川で過ごす生物は外部と遮断(しゃだん)されやすいため、地方独自の分化(ぶんか)が起き、現在も新しい種へ発展中の集団がたくさんあるようです。そんな意味からも和歌山のドンコ達を守っていきたいものです。

(自然博物館館だよりVol.21 No.4,2003年より改訂)

*2012年和歌山県版レッドデータブックで準絶滅危惧種に選定されました。


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