紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
14 カワアナゴ (川穴子)
スズキ目カワアナゴ科カワアナゴ属
カワアナゴEleotris oxycephalaは、太平洋側では栃木(とちぎ)県の河川から、日本海側では福井県から鹿児島県の種子島(たねがしま)にまで分布するカワアナゴ科の魚です。主に淡水域に生息しますが、汽水域(きすいいき)からも現れることがあります。夜行性の肉食魚で、ハゼの仲間では大型の種です。カワアナゴという名前をしていますが、アナゴのようにひも状の体ではなく、ハゼの仲間です。頭部を上から見るとアナゴに似ていたからという説がありますが、いかがでしょうか。
カワアナゴ属は、どの種も外見が似(に)ていますが、頭部にある孔器列(こうきれつ)の位置や胸鰭(むなびれ)や尾鰭(おびれ)の斑紋(はんもん)等で分類されています。また、腹鰭(はらびれ)が吸盤状(きゅばんじょう)になっていない事もカワアナゴ属の特徴です。和歌山県では河川の下流域から河口汽水域で見ることができますが、河口に大きな堰(せき)があると遡上力(そじょうりょく)がないのか、あまりその堰の上では見ることができません。ですからカワアナゴを多く見かけるのは、自然環境の状態が良い和歌山県中、南部の河川です。また、岸辺の草木が水没していたり、川面を覆(おお)うような場所でもよく見られます。
一見、地味な魚のようですが茶色っぽい体色は、水中にある倒木(とうぼく)や水没した枯れ草、枯れ木によく溶け込んで見事な保護色になっています。また、背面だけが明るい色に変化する事もあり、砂地や岩場にいると見落としがちです。こうして餌になる小動物(エビや小魚)を待ち伏せているようです。
繁殖期(はんしょくき)になると、背鰭や臀鰭(しりびれ)の縁(ふち)が黄色から朱色に染まって美しい姿(すがた)になります。カワアナゴは、川底にある岩の裏側等に、非常に小さな卵を大量に産み、オス親が孵化(ふか)まで保護します。産まれた仔魚は直ちに海へ下り、そこで成長して再び川へ戻ってくる両側回遊型(りょうそくかいゆうがた)の生活史を送ります。孵化したてのカワアナゴの仔魚は、全長が1mm程で、魚の中でも非常に小さな仔魚の部類に当たるのですが、海でどの様な生活を送って川へ戻ってくるのかは謎です。あまりに小さすぎるため仔魚の飼育も今まで困難(こんなん)でしたが、最近飼育に成功したという話を耳にしました。カワアナゴ属の謎(なぞ)は、これから明らかになっていくことでしょう。楽しみです。
(自然博物館だよりVol.22 No.2,2004年より改訂)
*2009年3月現在、卵から孵化させたカワアナゴ仔魚は、飼育が可能になり、それにより野外での仔稚魚の採集と研究も大きく進んでいます。