紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
15 ゴクラクハゼ (極楽鯊)
スズキ目ハゼ科ヨシノボリ属
ゴクラクハゼRhinogobius giurinusは、太平洋側では茨城県(いばらきけん)、日本海側では石川県以南、沖縄県(おきなわけん)の南西諸島(なんせいしょとう)にまで分布するヨシノボリ属のハゼです。国外からは朝鮮半島、中国、台湾から知られています。この「紀州の鯊(はぜ)」コーナーではお馴染(なじ)みの両側回遊型(りょうそくかいゆうがた)の生活史を送るハゼなので、ゴクラクハゼは我々にとって「川にいる魚」という印象(いんしょう)が強いハゼです。体長は大きくても10cm程で、背鰭(せびれ)の前にある鱗(うろこ)の数や体の模様、顔の斑紋(はんもん)によって他のヨシノボリ属と区別できます。
ゴクラクハゼは、和歌山県の河川下流でふつうに見ることができる淡水域(たんすいいき)の代表的なハゼのひとつです。また、小さな頃(ころ)は、マハゼやアシシロハゼと共に汽水域(きすいいき)に現れることもあります。オスは、繁殖期(はんしょくき)になると背鰭や臀鰭(しりびれ)が朱(しゅ)に染まり、顔の模様もクッキリしてきます。また川床(かわどこ)の石の下を掘って巣穴(すあな)をつくり、メスを呼び込みます。このあたりは多くのハゼの仲間と変わりませんね。
このゴクラクハゼは河川の下流に見られるのですが、同じような場所にはシマヨシノボリやチチブなどが現れたりします。いずれも似たような生活史を送り、エサも同様ですが、吸盤状(きゅうばんじょう)になっている腹鰭(はらびれ)の形態(けいたい)から、より流れの強い場所にシマヨシノボリが、流れが緩(ゆる)く、時には海水の影響(えいきょう)も受けるような場所にはチチブが、そしてもっと海よりにはマハゼやアシシロハゼが・・・という具合(ぐあい)にすみ分けを行っているようです。もちろん、すみ分けはこれらの種類の組み合わせによって起こるので、他の種類がおらず下流にゴクラクハゼ一種類のみの場所では、流れのある場所や汽水域もゴクラクハゼが利用していることでしょう。
どこの川でも普通に見られるゴクラクハゼだからこそ、色々な環境(かんきょう)で比較して観察ができます。一度近所の川を覗(のぞ)いてみてはいかがでしょうか?
(自然博物館だよりVol.22 No.3,2004年より改訂)