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ワカヤマソウリュウ

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紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu

17 チャガラ (茶殻)

スズキ目ハゼ科キヌバリ属

17 チャガラ (茶殻)

チャガラPterogobius zonoleucusはキヌバリ属のハゼで、東北地方から九州にかけての内湾など比較的浅くて穏(おだ)やかな沿岸に生息しています。体長は8㎝ぐらいで、岩場や藻場(もば)、防波堤(ぼうはてい)のまわりに群(む)らがりをつくって生活しています。夏には潮溜(しおだ)まり等でも稚魚(ちぎょ)を見ることができますが、冬は水深のある場所に集まっている様子を見かけます。

和歌山市内では、加太(かだ)や雑賀崎(さいかざき)の漁港(ぎょこう)内で赤茶色の棒(ぼう)が集まった様なチャガラの集団を見付けることができます。特に稚魚や若い個体は、「お茶殻(ちゃがら)」のようにも見えます。何でも名前の由来(ゆらい)は、鶏(にわとり)のエサ用に干(ほ)したチャガラに稚魚が、「お茶殻」に見えたからだとか。チャガラは、以前紹介したサツキハゼのように遊泳(ゆうえい)するハゼです。赤や黄色の模様をもつチャガラは、観賞魚(かんしょうぎょ)としても人気があります。チャガラは、体型(たいけい)も泳ぎ方も、おおよそ一般的な「ハゼらしいハゼ」ではないのですが、分類上では立派(りっぱ)なハゼの仲間にあたり、ハゼという魚の多様性(たようせい)を改(あらた)めて感じさせます。

チャガラという魚は、最近まで、あまりその生活は知られていませんでした。おおよその産卵期(さんらんき)や生活場所は知られていますが、どのように繁殖(はんしょく)して、どのような一生を送るのか不明な点が多くありました。ハゼの多くは水産資源(すいさんしげん)として価値(かち)のない魚なので放(ほう)っておかれる場合が多く、チャガラもその一つということなのでしょう。ところが「磯焼(いそや)け」や東京湾(とうきょうわん)や大阪湾(おおさかわん)などの沿岸の環境問題(かんきょうもんだい)が注目され、藻場(もば)の再生実験(さいせいじっけん)や環境に優しい護岸(ごがん)工法の開発過程(かいはつかてい)で、間接的(かんせつてき)にチャガラの生活が分かってきました。チャガラの子供達は、藻場をゆりかご代(が)わりに成長し、成長すると岩の陰(かげ)やコンクリート護岸の隙間(すきま)へ入って休みます。産卵期には一般のハゼ同様にオスがなわばりを持ち、メスの産んだ卵を保護(ほご)します。水中を自由に泳ぎ回るチャガラでも、産卵の際には海底や護岸の状態がとても大事である事がわかってきました。水底を生活場所としている一般のハゼは、水質だけでなく底質(ていしつ)にも敏感(びんかん)で、環境状態を知るための指標生物(しひょうせいぶつ)として知られています。チャガラの生活が明らかになるにつれて、意外にも底質が大きく影響していることが分かってきたようです。水底から離(はな)れてもハゼはハゼと言うことでしょうか?

(自然博物館だよりVol.23 No.1,2005年)


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