紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
19 ウロハゼ (虚鯊)
スズキ目ハゼ科ウロハゼ属
ウロハゼGlossogobius olivaceusは、ウロハゼ属のハゼです。体長20㎝以上にもなるハゼで、本州のほぼ全域と四国、九州に生息し、国外では中国や台湾(たいわん)から知られています。主に汽水域(きすいいき)で生活しており、砂礫底(されきてい)から泥底(でいてい)まで様々な場所で見ることができます。岩の隙間(すきま)(ウロ)や筒(つつ)のような穴にすみついていることが多いので「ウロハゼ」の名前が付いたようです。ウロハゼは、これといった特徴(とくちょう)のないハゼらしい体型(たいけい)のハゼです。ウロハゼの背中側(せなかがわ)を見ると目の後方、第1背鰭(せびれ)の前方に明瞭(めいりょう)な黒斑(こくはん)が数個あること、目から吻端(ふんたん)、下顎(したあご)にかけて暗色(あんしょく)の筋模様(すじもよう)が左右一本づつあること、尾鰭(おびれ)の基部(きぶ)に黒色斑があること等が特徴ですが、何度も見て慣(な)れる事が一番でしょう。何年も生き延(の)びて大きくなった個体と一年目の若い個体では、ずいぶん受ける印象(いんしょう)も違います。
このように地味(じみ)なハゼですが、ハゼ釣りの際にはよく釣れてきて、しかも美味(びみ)だから密(ひそ)かなファンも多いはずです。私も紀ノ川(きのかわ)河口で何度もお目にかかったことがあります。瀬戸内海(せとないかい)沿岸の地域では、タコ壷漁(つぼりょう)ならぬ「ハゼ壷漁」もあり、この漁業の対象魚(たいしょうぎょ)がウロハゼなのだから、味は保証済(ほしょうず)みでしょう。一度、試(ため)してみる価値(かち)はあると思いますよ。
ウロハゼに関しては、「だぼはぜ」や「黒はぜ」、「土用(どよう)ハゼ」という呼び名が残っていることからも、昔から我々と関係が深いことがわかります。そのほとんどは食用としての利用であり刺身(さしみ)、白焼(しらや)き、甘露煮(かんろに)などマハゼに負けないぐらい日本人に利用されているハゼなのです。にもかかわらず、ウロハゼという名前が一般的でないのは悲しいことですね。
(自然博物館だよりVol.23 No.3,2005年)