紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
20 クロヨシノボリ (黒葦登)
スズキ目ハゼ科ヨシノボリ属
クロヨシノボリRhinogobius sp.DAは、体長6㎝ほどのヨシノボリ属のハゼです。日本海側では秋田県(あきたけん)以南、太平洋側では千葉県(ちばけん)から南西諸島(なんせいしょとう)までに生息しており、今のところ日本の固有種(こゆうしゅ)とされています。クロヨシノボリは、主に河川の中流から上流域に生息しており、小さな河川では河口域以外の流程(りゅうてい)全てに生息していることもあります。また、クロヨシノボリの分布は黒潮(くろしお)(暖流(だんりゅう))の影響(えいきょう)を受けやすいと考えられています。
クロヨシノボリの特徴(とくちょう)は、体側の胸鰭(むなびれ)後方から尾柄(びへい)にまで現れる暗色の点列と背側に出る鞍状(あんじょう)の暗色斑紋(はんもん)です。また、胸鰭の鰭条数(きじょうすう)は19本以上(希(まれ)に18本)であることから、カワヨシノボリRhinogobius flumineusと区別できます。繁殖期(はんしょくき)のオスの第1背鰭(せびれ)の鰭条(きじょう)は伸長し、成熟(せいじゅく)したメスの腹部は黄色くなります。頬(ほお)に小さな赤色点を持つ個体や、持たない個体もあり、同定(どうてい)は慣(な)れないと難しいかもしれません。クロヨシノボリは、一般に両側回遊型(りょうそくかいゆうがた)の生活史を送ることが知られており、海と川がダムや堰(せき)で遮断(しゃだん)されると、海から新しい個体がのぼって来られなくなるため、個体数の減少(げんしょう)や遺伝的(いでんてき)に劣化(れっか)するなどの悪影響が考えられています。
現在、クロヨシノボリは、和歌山県のほとんどの河川で見ることができ、小さな川や大きな川のダム周辺にも生息しています。しかし、調査をしていると、どう考えても川から登ってこられない様な場所にある野池にもクロヨシノボリが生息していることがあります。理由については、まだ不明な点が多いのですが、本来海で過ごすはずの仔稚魚期(しちぎょき)を、野池を海の代(か)わりとして利用することができれば生き残ることが可能であると考えられます。そうなると、クロヨシノボリの仔稚魚にとって塩分や海からの栄養分は必要ないということになります。そのへんの詳(くわ)しい調査は、まだ途中ですが、クロヨシノボリの生活史には、本来海が必要だった魚が、淡水だけで生活できるように進化(しんか)した秘密(ひみつ)が隠(かく)されている様な気がします。
(自然博物館だよりVol.23 No.4,2005年より改訂)
*クロヨシノボリには2013年よりR. brunneusの学名が与えられています。