紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
23 クモハゼ (蜘蛛鯊)
スズキ目ハゼ科クモハゼ属
クモハゼBathygobius fuscusは、サンゴ礁(しょう)や岩礁域(がんしょういき)から河口などの汽水(きすい)域まで、広く沿岸で見られるハゼ科魚類です。日本では、太平洋側では小笠原諸島(おがさわらしょとう)と房総半島(ぼうそうはんとう)以南、日本海側では石川県(いしかわけん)以南に分布することが知られています。雌雄(しゆう)ともに体型(たいけい)は太短く、第1背鰭(せびれ)の外縁(がいえん)に黄色(またはオレンジ色)帯があり、その下に黒褐色(こっかっしょく)の帯模様(もよう)があります。胸鰭(むなびれ)の上方に遊離軟条(ゆうりなんじょう)があることも特徴(とくちょう)の一つです。遊離軟条とは、ふつう鰭膜(きまく)でつながっている鰭条(きじょう)同士が鰭膜がないか、非常に未発達なために一本、一本独立している鰭条の事です。分類の際には大事な形質(けいしつ)の一つになります。
クモハゼは当館の展示水槽でも周年(しゅうねん)展示されています。性格は好奇心旺盛(こうきしんおうせい)なので、中層(ちゅうそう)を泳ぐ魚と一緒に飼育すると、そのような魚をつつき殺してしまうこともありますが、クモハゼ同士だと飼育密度(しいくみつど)が高くても激しいケンカはしないようです。カワアナゴ属やチチブ属の激しい種内闘争(しゅないとうそう)や共食(ともぐ)いを考えると、他の魚をつつく行動は、あくまで「好奇心」の現(あらわ)れであって、基本的に攻撃的(こうげきてき)な性格ではないようです(あくまでも「ハゼの仲間の中では」の話ですが・・・)。
クモハゼは、和歌山県の沿岸ではよく見られ、特に中部以南ではもっとも普通に見られるハゼの一つです。ちょっとした岩場やタイドプールには必ずと言っていいほど顔を見せます。ただ温暖化(おんだんか)の影響でしょうか。以前はあまりクモハゼの確認がなかった日高町や有田市周辺でも最近になって頻繁(ひんぱん)にクモハゼを見ることができるようになったと感じます。7,8年前までアゴハゼChaenogobius annularisやドロメChaenogobius gulosusが多かった場所が、いつの間にかクモハゼばかりになっている事もしばしばあります。クモハゼの分布域拡大の原因は、温暖化だけでなく、磯焼(いそや)けや大規模土木工事(だいきぼどぼくこうじ)による土砂(どしゃ)の流出、コンクリート護岸(ごがん)の整備(せいび)による沿岸部海底の環境変化(かんきょうへんか)の影響も大きいことでしょう。クモハゼの分布が本当に拡大しているのかどうか、これから調べていきたい課題の一つですが、もし事実であれば、その原因について私達はしっかり把握(はあく)しておく必要がありそうです。
(自然博物館だよりVol.24 No.4 ,2006年より改訂)