紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
25 キヌバリ (絹張)
スズキ目ハゼ科キヌバリ属
キヌバリPterogobius elapoidesは青森県から九州の沿岸岩礁域に生息するキヌバリ属のハゼです。数個体から数十個体で群がりをつくり、岩礁域に生えるガラモなど海藻類の周辺を泳ぎ回っています。一般的なハゼと違って遊泳性で、見た目も鮮やかな体色であることから、「ハゼらしくないハゼ」としても知られています。キヌバリ属には以前に紹介したチャガラPterogobius zonoleucus(「紀州の鯊17」)のように派手な色彩と遊泳力のある「ハゼらしくないハゼ」が多く含まれています。キヌバリは、特徴的な体側の6本の黒い縞模様とそれを縁取る黄色い帯模様に加え、胸鰭上方に遊離軟条があること、眼の下に黒い筋模様があることで容易に他種と区別できます。
しかしこのキヌバリ、太平洋側にすむ個体群と、日本海側にすむ個体群で体の縞模様が違うこと、ご存じでしょうか。太平洋側の個体は黒い縞模様が6本であることに対し、日本海側の個体は7本の縞模様があります。日本海側の個体には尾鰭の基底にもう1本縞模様があるのです。なぜ、日本海側の方が縞模様が多いのか理由は分かっていませんが、太平洋側と日本海側の個体群の間で遺伝的な交流がなかったということになるのでしょうか。ちなみに太平洋側と日本海側との境目にあたる津軽海峡や関門海峡では日本海型が優勢だったように記憶しています。
和歌山県の沿岸ではキヌバリは決して多い魚ではありません。チャガラの群れに混ざっていたり、潜水していると藻場で群れを見かける程度です。基本的に臆病であることに加え、近年の藻場の減少によって生息数が減っている可能性があります。具体的な調査は行われていませんが、この美しいハゼを県内で普通に見られるような環境を取り戻したいものです。
(自然博物館だよりVol.25 No.3,2007年)