紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
27 マサゴハゼ (真砂鯊)
スズキ目ハゼ科スナゴハゼ属
マサゴハゼPseudogobius masagoは、太平洋側では宮城県以南、日本海側では島根県壱岐(いき)以南から沖縄(おきなわ)にまで生息する体長3センチほどの小型のハゼです。河口など汽水域(きすいいき)の泥底(でいてい)でカニ類、スナモグリやテッポウエビなどのエビ類の巣穴(すあな)を利用して生活しているようです。国外では台湾(たいわん)や朝鮮半島(ちょうせんはんとう)から生息が報告されています。マサゴハゼは第1背鰭(せびれ)に黒斑(こくはん)がないこと、眼(め)の下の黒色斑の状態から近縁(きんえん)なスナゴハゼPseudogobius javanicusと区別できます。どちらも同じような場所に生息する小型のハゼですが、マサゴハゼの方が吻端(ふんたん)が丸く、細身である印象(いんしょう)を持っています。マサゴハゼは和歌山県内の比較的大きな河川の河口干潟(ひがた)などでよく見ることが出来ますが、小さいので泥と一緒に採集すると、見つけだすのが大変です。
このマサゴハゼも他の干潟を利用するハゼ同様に干潟の減少(げんしょう)に伴い、2014年に公表された環境省(かんきょうしょう)のレッドデータブックでは絶滅危惧(ぜつめつきぐ)Ⅱ類に、2012年和歌山県版レッドデータブックで準絶滅危惧種に指定されています。以前は沖縄島のマサゴハゼ個体群(こたいぐん)のみ指定されていましたが、日本全体のマサゴハゼに関しても、ここ数年で危機的(ききてき)な状況が明らかになってきたのか、あるいは急激(きゅうげき)に生息環境(せいそくかんきょう)が悪化しているのか。またはその両方か。いずれにしても考えさせられます。最近、三重県揖斐川(いびがわ)河口域でマサゴハゼの生活史に関する研究が行われ、おおよそ寿命(じゅみょう)は1年ほどであるということがわかってきました。毎年毎年、産卵して親魚はほぼ全て死んでいくということは、毎年安定した干潟環境が存在していなければ、マサゴハゼは生息していくことが難しいということです。たった一年でも自然災害(しぜんさいがい)や人為的影響(じんいてきえいきょう)でうまく産卵(さんらん)、加入ができなければ、その場所のマサゴハゼ達の個体群はなくなってしまう可能性があります。もちろん、近くの干潟からマサゴハゼの仔魚(しぎょ)が流れて加入してくることは十分に考えられますが、干潟の消失(しょうしつ)によって干潟同士が分断(ぶんだん)され「お隣(となり)の干潟」が遠くなっていたり、良好な干潟がなくなりつつある現状を考えると、あまり悠長(ゆうちょう)なことも言っていられません。
和歌山県内では、まだ普通に見ることができるマサゴハゼ。特に寒い時期でも干潟の浅場をチョロチョロしているので一年を通じて採集、展示(てんじ)しやすい魚です。もっとも、小さすぎるため展示していてもどこにいるのか分からないという来館者からのご意見が多くあり、色々と展示方法の工夫が必要なようです。
(自然博物館だよりVol.26 No.2,2008年より改訂)