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紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu

32 ミジンベニハゼ (微塵紅鯊)

スズキ目ハゼ科ミジンベニハゼ属

32 ミジンベニハゼ (微塵紅鯊)

ミジンベニハゼLubricogobius exiguusは、日本海側では兵庫県以西、太平洋側では東京湾以西に分布する体長3㎝程のハゼの仲間です。一見、きれいな黄色をしていて、コバンハゼやダルマハゼに似た体型をしているので、サンゴ礁などに生息していそうですが、東京湾や大阪湾など温帯の内湾で見られ、海底に沈んでいる空き缶などを「すみか」として利用するたくましい一面を持っています。

ミジンベニハゼの特徴は、黄色い体色とずんぐりした体型をもち、鰓孔と腹鰭が大きいこと、体に鱗が無いこと等です。和歌山県では、水深20-30m程までの波の穏やかな沿岸で見ることができます。ダイバーの方にも人気の魚ですね。

ミジンベニハゼには、興味深い生態があります。ミジンベニハゼは、しばしば「すみか」から雌雄一緒に採集されることがあります。一般的なハゼの仲間は、群れで行動する種類を除いて、産卵の時以外はメスであってもオスは自分の巣(産卵床やなわばり)に他の個体を入れることはありません。しかし、ミジンベニハゼは、一度ペアを作るとどちらかが死んでしまうまで連れ添うと言われています。仲の良いことですね。

しかし、それにはミジンベニハゼたちなりの理由があるようです。内湾の水深30m以浅という場所は、太陽光も届き、陸地からの影響も受けてエサが豊富なため、非常に多くの生物が利用しています。そこへ黄色い小さなハゼがチョコチョコ繁殖相手を探したり、メスをめぐって闘争していたら、間違いなく他の生きものの絶好のエサになってしまうでしょう。そのような繁殖時の危険を避けるためにも、ミジンベニハゼは「一夫一妻」のシステムを取ったのでしょう。毎年相手を捜す手間や危険を省き、卵の保護は交互に行うことで(普通はオス親のみです)、ミジンベニハゼたちは、確実に子供を残し、自分たちも生き残って次の産卵に取り組む事が可能になります。実際にミジンベニハゼをペアで飼育していると、産卵可能な時期であれば、ひと月に1回か、それ以上のハイペースで数百粒の卵を産みます。このようなミジンベニハゼの産卵数は、産卵のたびに相手を捜したり、卵を保護して疲労し死んでしまいそうになる他の種類のハゼには真似できないことでしょう。小さなミジンベニハゼにとって「一夫一妻」は、子供も自分たちも生き残っていくための大事な戦略だったのですね。

(自然博物館だよりVol.27 No.3, 2009年)


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