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ワカヤマソウリュウ

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紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu

34 ビリンゴ

スズキ目ハゼ科アゴハゼ属

34 ビリンゴ

ビリンゴGymnogobius breunigiiは、北海道から鹿児島県種子島に分布する体長6センチ程度のハゼです。国外からはサハリンや沿海州、朝鮮半島、渤海、黄海に分布しています。ビリンゴの生息場所は主に汽水域で、河口や汽水湖、干潟などの中層を浮遊しながら数十から数百個体の群がりを作って生活しています。ビリンゴは雑食性で、主に小動物を食べています。ビリンゴの仲間(ウキゴリ属)は区別が難しいのですが、ビリンゴは、雌雄共に体側に黄色横帯が現れないこと、眼の前方から両眼間隔域を通り、後方にかけて感覚管があり、開孔は3つであることで他のウキゴリ属と区別できます。また、孵化した仔魚は海へ降り、その後汽水域や淡水域へ戻ってくる両側回遊型の生活を送ることも他のウキゴリ属と比較する上で大事な点です。

ビリンゴの婚姻色は、オスが地味でメスが派手になることが知られています。一般的なハゼではオスが派手になりメスにアピールしたり、他のオスに対してなわばりを主張したり威嚇を行うものですが、ビリンゴでは逆のようです。おそらく、オスの方にメスを選ぶ権利があるのでしょうね。

このビリンゴという魚、実はメダカと混同されていたようです。そもそも「ビリンゴ」という不思議な名前は、メダカの地方名だったようです。かつて、メダカに代表される小川の小魚たちは、みんな「めだか」でよかったのでしょうね。確かに「ごり」や「ちちこ(和歌山県南部での呼称)」と呼ばれるハゼたちは、水底にくっついて生活しているヨシノボリ属やチチブ属などのハゼたちです。中層を遊泳するビリンゴは感覚的に「めだか」と一緒だったのでしょう。もっとも、「ごり」も数あるメダカの地方名の一つなので、地域によって「小さな魚」は、みんな「めだか」ぐらいの大らかな感じで良かったのかもしれません。ビリンゴが昔から日本人に知られている一方で、それほど重要な産業に関わる魚ではなかったことが伺えます。あれこれもてはやされ、漁獲の対象になるより、ビリンゴたちもきっと、その方が幸せだったように思いますが、いかがでしょうか。

(自然博物館だよりVol.28 No.1, 2010年より改訂)


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