紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
35 カマヒレマツゲハゼ (鎌鰭睫毛鯊)
スズキ目ハゼ科サルハゼ属
カマヒレマツゲハゼOxyurichthys cornutusは元々南西諸島に分布していましたが、近年は静岡県や和歌山県、九州、四国など黒潮の影響を受ける地域からの報告があり、これらの地域に定着する可能性があります。国外では西太平洋から知られています。カマヒレマツゲハゼは汽水域や内湾の泥底に生息し、泥に穴を掘るか、他の生物が掘った穴を利用して生活しているようです。カマヒレマツゲハゼの特徴は、名前のとおり眼の上に睫毛のように1対の突起あること、第1背鰭棘が伸長して鎌鰭状になっていること、さらに、第1背鰭前方にヒダのような皮質隆起があること、尾鰭先端が尖っていることなどです。
黒潮の影響を受ける地域に分布が広がっていることから、カマヒレマツゲハゼの仔魚は海流に乗ってこれらの地域に侵入し、成長したものと考えられます。和歌山県では、まだ産卵の確認こそできていませんが、同じ場所でカマヒレマツゲハゼの異なる年齢群を確認していること、着底後間もないと思われる小さな個体を確認していることから、既に県内で繁殖している可能性が十分にあると考えられます。
しかし、気になるのはやはり「まつげ」。一体何のためにあるのか、気になりませんか。
形と付いている位置から、人間の睫毛のように眼に入るゴミなどを取り除いてくれるとは考えにくいですね。むしろ「角」や「アンテナ」のように見えます。この「まつげ」は薄い皮でできているので、突いて敵を追い払ったり、ライバルからなわばりを守ったりするのは無理なようです。そうなると、彼らが住む泥底で、濁ったときなどにセンサーとして働いているのでしょうか。あるいはダテハゼ類とテッポウエビ類のような共生関係にある生物に信号を送る役目を果たしているのか。確かにサルハゼ属はダテハゼ属のような尖った尾鰭をしているので、この長い鰭を使って他の生き物とコミュニケーションを取っている可能性があります。また、大きな第一背鰭は、他のハゼ類の例からすれば求愛の際に広げたり、威嚇に使うほかに、鰭の先で共生相手の他の生き物に触れることも可能です。
では、この短い「まつげ」は・・・やはり謎のままでしょうか。
(自然博物館だよりVol.28 No.2, 2010年)