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ワカヤマソウリュウ

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紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu

37 ヤハズハゼ (矢筈鯊)

スズキ目ハゼ科クモハゼ属

37 ヤハズハゼ (矢筈鯊)

ヤハズハゼBathygobius cyclopterusは、千葉県から琉球列島に分布する体長約6㎝に成長するクモハゼの仲間です。クモハゼ属なので、胸鰭の上方には遊離軟条があることは、もちろん特徴のひとつですが、体側中央に黒色斑が縦列すること、腹鰭の膜蓋中央部に突起があることなどの特徴で他のハゼと区別できます。しかし、正直なところ慣れないと非常に難しいです。また、明るい体色をしているときは、頭部と尾柄部に白色の鞍状斑が現れますが、体全体が暗色になることもあるので、体色だけで判断はできません。

ヤハズハゼは浅い岩場に生息し、潮だまりや転石帯で見ることができます。このように自然界でヤハズハゼを見る際は、明るい体色であることが多いため頭部の白と体の暗色が対照的で非常にきれいなのですが、ちょっと水深のある岩陰にいる個体や、しばらくバケツに入れてフタをしていると全体的に灰色や黒っぽくなって「知らないうちに変な魚を採っていた」と驚くことがあります。

和歌山県のヤハズハゼの生息状況をみると、黒潮の影響を受けているようです。ヤハズハゼは、和歌山県でも10年ほど前はまだ「珍しい魚」で、串本町周辺以外では見かけなかったと思います。しかし、6年ほど前から、すさみ町や白浜町でも見かけるようになり、ここ2、3年は田辺湾以南で普通にみるようになりました。特に浅い砂礫底で小さな河川などが流れ込んでいると、ほぼ間違いなく礫の周辺にいます。ヤハズハゼは、浅い海域だけでなく汽水域にも現れます。汽水域では塩分が高い環境を好むようで、低塩分の場所にはクモハゼB. fuscusが現れることが多いように思います。クモハゼ類の分布の広がりについては、紀州の鯊23のクモハゼ(館だよりVol.24 No.4)や紀州の鯊24のアゴハゼChaenogobius annularis(館だよりVol.25 No.1)でも書きましたが、その時はまさかヤハズハゼが、さらに南から分布拡大をしてくるとは思っていませんでした。すでにヤハズハゼは昨年ぐらいから和歌山市内の南部の磯でもかなり頻繁に見かけるようになっています。来年あたり和歌山県の枯木灘、紀伊水道側はアゴハゼやドロメC. gulosusに替わって、クモハゼ・スジクモハゼB. cocosensisさらに、ヤハズハゼが普通に見られるハゼとなってしまうかもしれません。ちなみに和歌山県の東側、熊野灘方面ではヤハズハゼの侵出は、それほど顕著ではない様子です。黒潮の影響以外にも、アゴハゼやドロメに比べてシルト状の底質でも生活に問題ないようです。沿岸の開発、山林の荒廃など人為的な影響も見過ごせないでしょう。

(自然博物館だよりVol.28 No.4, 2010年より改訂)


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