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ワカヤマソウリュウ

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紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu

38 イトヒゲモジャハゼ (糸髭もじゃ鯊)

スズキ目ハゼ科ヒゲモジャハゼ属

38 イトヒゲモジャハゼ (糸髭もじゃ鯊)

イトヒゲモジャハゼBarbuligobius boehlkeiは体長2~3cm程の沿岸の砂礫底にすむハゼです。国内では南西諸島から黒潮の影響を受ける地域から点々と報告があり、八丈島までに分布しています。国外ではインド洋から西太平洋に広く分布するようです。サンゴの死骸やサンゴ砂などが溜まった比較的潮通しの良い潮だまりや礁池などでみられますが、南西諸島以外で「サンゴの瓦礫」がある海岸となると限られてきますね。イトヒゲモジャハゼの特徴は、なんと言っても名前にもあるように頭部にヒゲのような皮弁が多数有り、そのヒゲが糸状に細いことでヒゲモジャハゼB. sp.Aと区別できます(ヒゲモジャハゼはヘラ状(幅が広い))。

和歌山県では、「エビとカニの水族館」の平井厚志氏によって、すさみ町の沿岸で確認されています。夜間に貝類や甲殻類を調査しているときにイトヒゲモジャハゼを見つけたそうです。私も何度か採集に行って確認しましたが、水深の浅い潮だまりに数十個体のイトヒゲモジャハゼがいました。周辺にはスジクモハゼBathygobius cocosensisやヤハズハゼB. cyclopterusなど多くのハゼ類やイソギンポ類がいるのですが、イトヒゲモジャハゼがいる潮だまりはサンゴ砂の底質で、浅くて身を隠す岩などの少ない場所です。イトヒゲモジャハゼは、そんな浅い潮だまりのサンゴ砂に埋まり、あるいは体色を変えて砂の色に似せて生息していました。

しかし、わからないことがあります。イトヒゲモジャハゼが確認できるのは夜ばかり。しかも、夜間にイトヒゲモジャハゼを確認できた場所でも、昼では採集できませんでした。昼は砂に潜っているのか、やや深い場所へ移動しているのかどちらかだと思い、砂ごと掬い取ったり、やや深い場所で調査を行いましたが見つけられませんでした(潜水はまだしていませんが)。また、夜間であっても水深の深い場所ではイトヒゲモジャハゼを確認できていません。例えは、昼間にイトヒゲモジャハゼが水深十m前後の場所で生活していたとしても、イトヒゲモジャハゼが夜の浅い潮だまりに出てきているの理由がわかりません。あるいは、見つけられていないだけでズッとその潮だまりの中ににいるのでしょうか。

その後の平井さんの調査で、イトヒゲモジャハゼがすさみ町の沿岸で越冬できる可能性が高い事がわかってきました。再生産しているかどうかはまだ不明ですが、ヒゲモジャの「ヒゲ」の機能といい、気になることが多いハゼのひとつです。

(自然博物館だよりVol.29 No.1, 2011年)


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