紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
39 クボハゼ (窪鯊)
スズキ目ハゼ科ウキゴリ属
クボハゼGymnogobius scrobiculatusは体長4㎝程度の日本固有のハゼ科魚類で、日本海側では福井県から、太平洋側では本州中部から鹿児島県までに分布します。クボハゼは主に河口などの汽水域に生息し、アナジャコやニホンスナモグリ等の甲殻類が砂泥底に開けた穴を利用して生活しているようです。クボハゼは、体がやや細長く頭部の断面が台形に近い形をしていること、腹部から体側中央にかけて褐色の横帯があること、口が大きく眼の後方に達することなどが特徴ですが、小さいハゼなので見分けるには慣れが必要です。なにしろ1993年まではクボハゼとキセルハゼG. cylindricusは混同されており、全て「クボハゼ」とされていたぐらいですから、ややこしい訳です。ちなみにクボハゼは、生息環境が減少している上、今後も生息地の減少が予想されることから環境省のレッドデータブック(2014)で絶滅危惧ⅠB類に、2012年和歌山県版レッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
クボハゼは、甲殻類が掘った巣穴を利用して生活しているハゼですが、同じような生活をするハゼとして、チクゼンハゼG. uchidai(紀州の鯊11「館だよりVol.21 No.3」)やダテハゼ類、スジハゼ類がいます。これらの多くは、その巣穴の制作者(所有者)であるテッポウエビ等と共生関係にあることが知られていますが、なぜかウキゴリ属のハゼは巣穴を単に産卵場所や隠れ家として利用しているだけで、テッポウエビと積極的な関わりがあるように思えません。これは、片利共生(寄生と言うほど相手に害はない)の関係とも言えそうですが、ちょっとした石の隙間を繁殖に利用するクボハゼもいて「必ず巣穴を利用しなければならない」という事でもないようですから、そのへんが曖昧です。もちろん、穴を所有する甲殻類側のメリットも不明です。
クボハゼが繁殖する干潟は、ダイバーが潜るには水深が浅すぎるし、水面から観察するには潮の干満が大きいうえに、水の濁りもあるので意外と観察対象になりにくいのかもしれません。干潟環境があまりにも身近すぎて見過ごされていた、ということもあります。もしかしたら、今後のみなさんの研究で詳細がわかるかも知れませんよ。
(自然博物館だよりVol.29 No.2, 2011年より改訂)