紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
40 ニシキハゼ (錦鯊)
スズキ目ハゼ科キヌバリ属
ニシキハゼPterogobius virgoは、日本海側では秋田県以南、太平洋側では千葉県から九州までに分布する体長20cm程度になるハゼ科魚類です。内湾で底が岩場や砂の混じる水深10mよりも深い場所でよく見られます。頭部から体側のやや背側にある橙色の縦帯とそれを縁取るような青色の縦線が特徴です。また、単独かペアで行動していることが多く、底から離れての遊泳もします。ニシキハゼの学名(種小名)にある「virgo」は乙女座や少女という意味を持つので、このハゼの見た目の美しさから名付けられたのでしょう。また、富山一郎氏の「Gobiidae of Japan」(1936)の中でニシキハゼの採集地として長崎県や富山湾と共に和歌山県も記載されています。宇井縫藏の「紀州魚譜」(1924)の影響でしょうか。それとも、和歌山では比較的知られていたハゼだったのでしょうか。
現在の和歌山県内では、主に和歌山市から串本町沿岸にかけての比較的砂の多い砂礫底の広がる内湾で見ることができます。新宮市から串本町の沿岸は砂礫底の大きな湾が少ないためか、私はあまりニシキハゼの姿を見ていません。また往々にして、きれいな色の魚は性格がキツいので複数個体での飼育に困るのですが、ニシキハゼも気を付けないと、弱い個体がつつかれて水槽の外へ飛び出したり、鰭がボロボロになったりします。通常、ほぼ単独かペアで行動しているハゼですから、ある程度の個体間距離が必要なのでしょう。興奮すると体の青色の縞模様がはっきりと目立ってきます。体を大きく見せるためなのかもしれませんが、敵(捕食者)に見つかりやすくなってしまう気がします。産卵は冬とされていて、多くのハゼ科魚類同様に、オス親が卵を保護するようですが、あまり詳しいことはわかっていません。同属のキヌバリP. elapoides(紀州の鯊25 館だよりVol.25 No.3)やチャガラP. zonoleucus(紀州の鯊17 館だよりVol.23 No.1)のように石などの隙間に卵を産みつけるものと考えられます。
とても目立つハゼですが、意外と知られていないことが多いハゼなのです。
(自然博物館だよりVol.29 No.3, 2011年より改訂)