紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
42 アシシロハゼ (脚白鯊・足白鯊)
スズキ目ハゼ科マハゼ属
アシシロハゼAcanthogobius lactipesは日本海側、太平洋側共に北海道から種子島(たねがしま)までに分布し、内湾(ないわん)や河川河口域(かこういき)、河川下流の淡水域の砂底(さてい)に生息する体長9cmほどのハゼ科魚類です。尾鰭(おびれ)基部(きぶ)の黒色斑紋(はんもん)が2叉(さ)すること、ホオと鰓蓋(さいがい)に鱗がないこと、オスの第1背鰭(せびれ)棘(きょく)が数本伸長(しんちょう)すること、体側(たいそく)に腹部から背側にかけて明色の細い横帯(おうたい)模様がいくつも現れることが特徴(とくちょう)です。腹部が白いことあるいは、成魚の腹鰭(はらびれ)や臀鰭(しりびれ)が白くなることから「脚白(あししろ)(足白)ハゼ」と呼ばれるようですが、よく見ると白色というより灰白色(かいはくしょく)の方が適当(てきとう)な気がします。着底(ちゃくてい)間もないアシシロハゼの個体は同属(どうぞく)のマハゼA. flavimanusや似(に)た生息環境(せいそくかんきょう)をもつヒメハゼ属などと間違われやすいのですが、成長と共に体側に独特(どくとく)の横帯が現れてきます。また、マハゼは冬から春に産卵しますが、アシシロハゼは春から秋にかけて産卵するので、着底した稚魚(ちぎょ)の現れる時期にも違(ちが)いが見られます。
アシシロハゼは、マハゼのように特に人間に利用されることもなく、見た目も地味(じみ)なため、ほとんど意識(いしき)されません。紀の川や有田川(ありだかわ)などの河口域や河口干潟(ひがた)周辺には比較的(ひかくてき)普通(ふつう)に見られるものの、食用や観賞用(かんしょうよう)などの需要(じゅよう)から採集されることもないようです。ただしマハゼを狙(ねら)う釣り人や漁業者(ぎょぎょうしゃ)はちゃんとマハゼとアシシロハゼを区別しています。また、アシシロハゼはかつて「ツシマハゼ」とも呼ばれ、時折古い文献(ぶんけん)にその名前を見ることができます。第1背鰭棘の伸長しないメスを別種と考えたようです。過去に現在と別の和名をもつ生物は多く、アシシロハゼもその一つですが、いずれにしても昔からマハゼ等とちゃんと区別されていたようです。毒(どく)があるという話も聞かないアシシロハゼですが、ちゃんとマハゼと区別されていること、本種が食用にされるという話を聞かないことを考えると「それほどまでに美味(おい)しくないのか」という疑問(ぎもん)が浮(う)かびますが、私自身も試(ため)したことがないので、そのうち味見(あじみ)をしてみようと思います。
(自然博物館だよりVol.30 No.1,2012年)