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ワカヤマソウリュウ

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紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu

44 ナンヨウボウズハゼ (南洋坊主鯊)

スズキ目ハゼ科ナンヨウボウズハゼ属

44 ナンヨウボウズハゼ (南洋坊主鯊)

ナンヨウボウズハゼStiphodon percnopteryginus Watson et Chen, 1998は琉球列島(りゅうきゅうれっとう)や小笠原諸島(おがさわらしょとう)、千葉県以南の黒潮(くろしお)の影響(えいきょう)を受ける沿岸の淡水域に分布する全長4㎝ほどのハゼです。主に河川の中流域の流れの緩(ゆる)い場所に生息しています。

ナンヨウボウズハゼは、オスとメスで全く違(ちが)う色彩(しきさい)をしています。オスは、第1背鰭(せびれ)の鰭条(きじょう)が鎌状(かまじょう)に伸長することが特徴(とくちょう)で、その鰭膜(きまく)は朱色や赤色、黒っぽい個体がいます。体色は、吻端(ふんたん)から尾鰭(おひれ)基底(きてい)までメタリックブルーやメタリックグリーンで、褐色(かっしょく)やオレンジ色がかった斑紋(はんもん)や筋模様が現れることが特徴です。一方、メスや未成魚の個体は、乳白色(にゅうはくしょく)の体に1本は眼(め)を通るように、もう1本は吻端から胸鰭基部(むなびれきぶ)を通って、尾鰭基底まで茶褐色(ちゃかっしょく)の筋模様が2本あります。尾鰭は点列があり、腹鰭は吸盤状(きゅうばんじょう)であることが特徴です。

ナンヨウボウズハゼは、両側回遊型(りょうそくかいゆうがた)の生活史を送るため、仔魚(しぎょ)が黒潮に乗って熱帯・亜熱帯地域から運ばれて温帯域の河川にも侵入(しんにゅう)します。実際にミクロネシアやポリネシアと呼ばれる熱帯島嶼部(とうしょぶ)ではこのナンヨウボウズハゼの仲間たちが旺盛(おうせい)な分散能力(ぶんさんのうりょく)を生かして小さな河川にたくさん入り込んでいるようです。しかし、日本の本州(ほんしゅう)では冬の低水温に耐(た)えることが難しく、大部分は死滅回遊(しめつかいゆう)であると考えられています。和歌山県でもずいぶん探したのですがなかなか見つからず、先に高知県や静岡県で見つけられてしまいました。黒潮の影響を考えると絶対に紀伊半島にも来ているはずですが、ナンヨウボウズハゼが定着(ていちゃく)しそうな環境(かんきょう)の河川が見つからないのです。いろいろな方から情報をいただいたり、実際に調査に参加していただいた結果、2011年にようやく見つかりました。これらの個体が越冬(えっとう)しているのか定かではありませんが、環境条件さえ合えば和歌山であれば越冬しそうです。小さいながらもオスはとても鮮(あざ)やかな色彩で目立つ魚です。昔から鳥のカワセミ(翡翠)が「水辺の宝石」と例えられますが、ナンヨウボウズハゼは熱帯島嶼部の「川の宝石」でしょう。探しに行くなら「木枯(こが)らし」が吹く前がお勧(すす)めです。

(自然博物館だよりVol.30 No.3,2012年)


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