紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
45 サザナミハゼ (細波鯊、漣鯊)
スズキ目ハゼ科クロイトハゼ属
サザナミハゼValenciennea longipinnis(Lay et Bennett, 1839)は静岡県(しずおかけん)伊豆(いず)半島(はんとう)以南(いなん)の太平洋(たいへいよう)沿岸(えんがん)に分布(ぶんぷ)する体長(たいちょう)20cmほどの海産(かいさん)魚(ぎょ)です。内(ない)湾(わん)の河口(かこう)域(いき)やサンゴ礁(しょう)周辺(しゅうへん)の砂礫(されき)底(てい)に巣穴(すあな)を掘(ほ)って生息(せいそく)しています。
サザナミハゼは、体側(たいそく)に茶褐色(ちゃかっしょく)の楕円形(だえんけい)の斑紋(はんもん)が5つ並(なら)ぶこと、頭部(とうぶ)に5本(ほん)、体側(たいそく)に4本の黄褐色(おうかっしょく)からオレンジ色の縦帯(じゅうたい)があることが特徴(とくちょう)です。また、サザナミハゼは観賞(かんしょう)魚としても知(し)られ、底に沈(しず)んだ細(こま)かな餌(えさ)を砂(すな)ごと口(くち)に含(ふく)み口腔(こうくう)内(ない)で「モゴモゴ」と砂を鰓(えら)から排出(はいしゅつ)し、餌だけを食(た)べる仕草(しぐさ)は見(み)ていて飽(あ)きません。体側の特徴的(とくちょうてき)な模様(もよう)と共(とも)に一度(いちど)実物(じつぶつ)を見たら間違(まちが)えにくいハゼのひとつでしょう。
通常(つうじょう)、サザナミハゼは砂礫底に巣(す)穴(あな)を掘って単独(たんどく)で生息するのですが、繁殖(はんしょく)期(き)になるとペアを作(つく)ります。オスが住(す)んでいる巣にメスが訪問(ほうもん)し、巣内に卵(たまご)を産(う)みます。その後、通常のハゼ科(か)魚類(ぎょるい)ならばメス親(おや)はどこかへ行ってしまいオス親のみが卵保護(ほご)を行うのですが、サザナミハゼの場合(ばあい)は、産卵(さんらん)後(ご)のメスが複数(ふくすう)ある巣穴の一つに小石(こいし)やサンゴ片(へん)、砂等を口を使ってを積(つ)み上げ「マウンド」と呼(よ)ばれる山(やま)のような構造(こうぞう)物(ぶつ)を作ります。この構造物に水流(すいりゅう)が当(あ)たり、別(べつ)の穴から水(みず)が出(で)ることで卵のある巣穴内へ酸素(さんそ)が多(おお)く含まれた水が送り込まれやすくなるようです。当然(とうぜん)、卵の側(そば)で水を送(おく)り死(し)卵を取り除いて世話(せわ)をするのはオス親なのですが、メス親もオス親の世話が効率(こうりつ)良くできるように協力(きょうりょく)している訳(わけ)ですね(生物学(せいぶつがく)的(てき)には自身(じしん)の遺伝子(いでんし)をより多く残(のこ)せるように行動(こうどう)しているだけなのでしょうが)。実験(じっけん)的に、産卵直後(ちょくご)にメスやマウンドを取り除いてしまうとオスが卵の保護を止(や)めてしまう場合もあるようです。
当館(とうかん)で飼育(しいく)していると、餌を食べるときも、巣穴を作るときも常(つね)に砂を口に入(い)れてモゴモゴして水槽(すいそう)内の砂を大移動(だいいどう)させているサザナミハゼですが、和歌山県(わかやまけん)ではこれまで目撃(もくげき)例(れい)が少(すこ)しあるだけで、実際(じっさい)に採集(さいしゅう)されたのは最近(さいきん)の事(こと)です。伊豆で2002年(ねん)に見つかっているので、彼(かれ)らも徐々(じょじょ)に分布域を北上(ほくじょう)させているハゼなのかもしれませんね。
(自然博物館だよりVol.30 No.4,2012年)