紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
48 ツマグロスジハゼ (端黒筋鯊)
スズキ目ハゼ科キララハゼ属
ツマグロスジハゼAcentrogobius sp.2は、かつてスジハゼAと呼ばれていた体長4㎝ほどのハゼです。本種は、日本海側では島根県隠岐(おき)から対馬(つしま)、太平洋側では東京湾(とうきょうわん)から琉球列島(りゅうきゅうれっとう)までに広く分布し、干潟(ひがた)や内湾(ないわん)などの汽水域(きすいいき)やアマモ場など砂泥底(さでいてい)の浅場に広く生息しています。また、一部の個体はテッポウエビ類と共生(きょうせい)していることも知られています。
本種の特徴(とくちょう)は名前のとおり、腹鰭(はらびれ)の先(後端(こうたん))、つまり端(つま)が黒いことが特徴です。他にも第1背鰭(せびれ)の前方に鱗(うろこ)がないことや第1背鰭に黒斑(こくはん)がないことなどで、スジハゼ(かつてのスジハゼB)A. virgatulus (Jordan et Snyder, 1901)やモヨウハゼ(かつてのスジハゼC)A. pflumii (Bleeker, 1853)など他の種類と区別できます。しかし、これまで分類が混乱していただけあって一般の方は慣れないと種の同定は難しいハゼ類と言えます。また、スジハゼの仲間に共通しますが、体側には頭部から尾柄にかけて、青く光る斑紋が列をなしていて、とてもきれいです。
比較的まとまった個体数を簡単に採集できる種類なので、複数(ふくすう)個体を飼育(しいく)していると、大きな個体の中に、体側の青輝色(せいきしょく)の斑紋(はんもん)が一層目立つ個体がいることがあります。それはテッポウエビの巣穴(すあな)から出てきて間もない個体で、背面は黒褐色(こっかっしょく)で、体側の青点のみが非常にキラキラと目立ちます。また、繁殖期(はんしょくき)にも同様にキラキラ光る青色の点列を見せてくれます。まさにキララハゼ属(ぞく)の名前に違(たが)わない輝きなのですが、すぐに周辺の明るさに慣れるのか、あるいは危険(きけん)(観察者の存在)を察知(さっち)するのか、くすんだ灰褐色(はいかっしょく)の体に弱く光る青点列に変わってしまいます。このように体色の変化短時間で起こり、外見での同定作業を難しくします。
ツマグロスジハゼは、太陽光が十分に届く浅い場所で生活するなので、求愛(きゅうあい)や威嚇(いかく)等の際にこの青輝色の斑紋を利用していると思われますが、暗い巣穴で青色が見えるのか、など、不明な点が多く残ります。さらにテッポウエビ類との共生についても、エビ類と一緒に住んでいる個体がいれば、全く関わらずにフラフラしているように見える個体もあり、興味深いところです。まだ、ようやく和名が提唱(ていしょう)されたばかりで学名も確定していない本種は、今後も身近な謎(なぞ)の多いハゼとして楽しませてくれることでしょう
(自然博物館だよりVol.31 No3,2013年)