紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
49 カタボシオオモンハゼ (肩星大紋鯊)
スズキ目ハゼ科オオモンハゼ属
カタボシオオモンハゼGnatholepis scapulostigma Herre, 1953は、体長8cm程度のハゼ科魚類で太平洋側の千葉県以南に分布しますが、小笠原諸島や琉球列島の個体群以外の多くは死滅回遊しているようです。水深40m程度までの内湾やサンゴ礁域などの砂泥底や砂底に生息しています。
カタボシオオモンハゼは、眼を通る一本の黒い筋模様と胸鰭基部(むなびれきぶ)の上方にある黒く縁(ふち)取られた黄色斑(おうしょくはん)が特徴です。また、体側には赤褐色(せきかっしょく)の縦線(じゅうせん)が6本あり、そこにオオモンハゼ属の名前の由来にもなった黒色斑紋(はんもん)が並びます。カタボシオオモンハゼの学名は、2001年にG. cauerensis cauerensis (Bleeker, 1853)になりましたが、現在の新しい情報ではG. scapulostigma Herre, 1953が有効なようで、G. cauerensis cauerensis (Bleeker, 1853)は新参異名(シノニム)扱いのようです。また変更されるかもしれませんね。
さて、このカタボシオオモンハゼは、眼を通る黒色の筋(すじ)模様が目立つためクツワハゼ属やタネカワハゼStenogobius sp. Aを連想しがちです。しかし、クツワハゼ属は、眼から尾部(びぶ)方向に向けての筋模様であること、タネカワハゼは基本的に温かい地域の淡水に見られ、眼から下に向かう黒い筋模様は太くやや後方に向かうことで区別が付きます。和歌山県中部以南の沿岸砂底に見られるようですが、残念ながら、私はまだ出会ったことがありません。ここ数年、県内でも当館の他の学芸員が採集したり、来館者の方からいただいたりするのですが、どうも私と相性(あいしょう)が悪いようです。本種は、サザナミハゼ(「自然博物館だよりVol.30No.4 紀州の鯊45」参照)同様、砂と共に有機物を口に入れて「モゴモゴ」して、エラから砂を出して有機物をこし取って摂餌(せつじ)します。この様子は、館内の水槽飼育でも確認できるので、じっくり観察しても興味深いです。時折、大きすぎる餌を口に入れたものの、仕方なく吐き出したり、未練がましく、つついたりしています。
ダイバーさんには「脇役(わきやく)」的な地味なカタボシオオモンハゼですが、飼育してみると面白い行動が見えてきます。なにより、ちゃんと私も採集したいのです。長年生物採集していると、こういう「相性の悪い生きもの」って出てくるものなんですよね。
(自然博物館だよりVol.31 No.4,2013年)