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ワカヤマソウリュウ

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紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu

55 スミウキゴリ (墨浮鮴)

スズキ目ハゼ科ウキゴリ属

55 スミウキゴリ (墨浮鮴)

スミウキゴリGymnogobius petschiliensis (Rendahl, 1924)は、日本海・東シナ海側では、青森県から九州南部にかけて、太平洋側では北海道日高地方から渡島半島周辺と青森県から九州南部、屋久島までに分布し、河川下流域の淡水から汽水域に生息する体長10-15㎝程度のハゼ科魚類です。第1背鰭に目立つ黒斑がないこと、尾鰭基底部にある黒斑が大きく「三角形」であることが特徴です。しかし外見での区別、特に未成魚の判別は難しく、かつてはウキゴリG. urotaenia (Hilgendorf, 1879)(館だよりVol.27 No.1 「紀州の鯊30」参照)が「ウキゴリ淡水型」、シマウキゴリG. opperiens Stevenson, 2002が「ウキゴリ中流型」、本種が「ウキゴリ汽水型」と呼ばれていた事があります。このうちシマウキゴリは福井県や茨城県より北に分布しているので和歌山県内で見かけることは、まずありません。

スミウキゴリは、和歌山県では南部の汽水域や河川の中下流域に多く見られ、産卵期は早春から初夏とされています。繁殖期になるとオスは第1背鰭の縁辺部が黄色くなり、メスは腹部が黄色からオレンジ色を帯びます。春から梅雨時期にかけて海から遡上してくる本種の稚魚を見ることができます。「浮きゴリ」と呼ばれるように水中をフワフワと浮いていることが多く、特に稚魚は一度着底した後でも群がりを作って浮いていることがあります。このような状態で淀みなど流れの緩い場所でサツキハゼやゴマハゼ、ビリンゴ等と混群を作っていることがあります。ただし、私がよく行く汽水域では、スミウキゴリの稚魚は一度汽水域に入ってしまうと、サツキハゼやビリンゴの稚魚のように再び海域に出ていく様子はなく、汽水域に留まっているようにみえます。また、本種は体表にやや滑りがあるため、和歌山県南部の古座川では昔からウナギ釣りのエサとしては、チチブ類やヨシノボリ類に比べて敬遠されていたようです。スミウキゴリとしては、思わぬところで命拾いしたようですね。

(自然博物館だよりVol.33 No.2,2015年)


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