紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu
58 ホシノハゼ (星野鯊)
スズキ目ハゼ科
ホシノハゼIstigobius hoshinonis (Tanaka, 1917)は、日本海側では富山県以南、太平洋側では千葉県以南に分布する体長12㎝ほどのクツワハゼ属の魚類です。ホシノハゼは、主に内湾の砂泥底や砂底に単独あるいはペアで生息しています。和歌山県内でも水深1-5m程度の比較的浅い砂泥底で、ごく普通に見ることができます。1917年に田中茂穂博士が本種の記載に用いた標本は、採集地が「紀伊國廣」となっているので、現在の和歌山県有田郡広川町の広のことでしょう。また、本種の和名は、採集者の「星野伊三郎 氏」に由来するとみられます。
ホシノハゼは、眼の下に青輝色の斜帯があること、体側中央に大きな四角形あるいは「X」状の黒褐色斑が並び、その上下縁に黒褐色縦線があること等が特徴です。オスの第一背鰭には黒斑があり、メスや未成魚にはありません。また、一見したところクツワハゼIstigobius campbelli (Jordan et Snyder, 1901)によく似ていますが、頭部の斑紋や黒筋の現れ方で判別できます。体色や斑紋の違いから、かつては奄美大島から得られた本種の若魚に対して「ニセホシノハゼ」という和名が与えられていましたが、現在はホシノハゼにまとめられているようです。
当館で生体展示しているハゼの仲間で、本種はやや大きく、攻撃性もあるため他のハゼや小型魚類と一緒に飼育しにくい種類です。しかし、クエやアカエイなどの大型魚類と本種を一緒にするとすぐに食べられてしまうので、なかなか展示する水槽のない魚のひとつと言えます。ホシノハゼにもう少し「協調性」があれば、他の小さな生きものたちと一緒にできるのですが。もちろん、こういうタイプの魚もしっかり飼育できる設備と水槽環境を整えてやることも忘れてはいけませんね。
(自然博物館だよりVol.34 No1,2016年)