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紀州の鯊(ハゼ)Gobies in Kishu

59 イソミミズハゼ (磯蚯蚓鯊)

スズキ目ハゼ科

59 イソミミズハゼ (磯蚯蚓鯊)

イソミミズハゼLuciogobius sp.6は、日本海、東シナ海側では富山湾や能登半島から熊本県天草まで、太平洋側では岩手県から鹿児島県の屋久島までに分布する体長5㎝前後のミミズハゼ属の魚類です。沿岸から汽水域の淡水がわき出すような場所に生息しています。学名をみてわかるとおり、まだ正式な学名が与えられておらず、ここでの表記は日本産魚類検索 第三版に従います。

イソミミズハゼは、和歌山県内では紀の川河口や加太などの紀北地域から熊野灘に面した東牟婁郡までの沿岸に広く分布します。同属のミミズハゼL. guttatus Gill, 1859と一緒に採集できることもありますが、本種は塩分の濃い海よりの場所で、しかも真水が湧いている石の下など淡水の影響がある場所に現れるようです。本種は水域全体が汽水という状況よりも、海水の中でピンポイントで淡水が湧くような場所を好むようです。イソミミズハゼの特徴は、胸鰭の上方に遊離した軟条が1本あること、尾鰭の縁辺に白色や透明な縁取りが明確にあること、脊椎骨数が36または37であることが特徴ですが、外見からの判別は慣れないと相当困難です。

当自然博物館の展示水槽で飼育すると両者の違いはもう少し顕著に現れます。ミミズハゼは、慣れてくると外敵(捕食者)のいない水槽内では、明るくても堂々と姿を現し、時にはエサを催促するような行動を見せますが、イソミミズハゼは水槽に入れたが最後、どこに行ったのか姿が見えなくなります。底の砂に潜り込んだり、排水パイプから水槽裏の濾過槽へ逃げ出したり、彼らが「展示向きでない生きもの」であることは何度も思い知らされています。また、飼育しているとミミズハゼはどんどん大きくなり成長するのですが、イソミミズハゼはなかなか成長した様子を確認できず、急に死んでしまうこともしばしばあります。人間がみて「似たような魚」であっても、同じようには飼えないのです。いや、「似たような魚」だからこそ、厳密な生息環境やエサの違いが生まれているのかもしれません。実は、イソミミズハゼには、まだいくつかわかっていない種が混じっている混成種群である可能性があります。将来的に、今の「イソミミズハゼ」には別の名前が付いたり、和歌山県で見られる種には違う名前が付くかもしれません。人間から見たらそっくりの魚たちですが、彼らはちゃんと仲間を見分けて繁殖できているんですよね。その見分けるポイントを教えて欲しいものです。

「イソミミズハゼ」、奥が深すぎます。

(自然博物館だよりVol.34 No.2,2016年)


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